【小説】それぞれの後悔 – Episode 1

それぞれの後悔

救急搬送口の自動ドアが勢いよく開いた。

「患者さん、入ります!」

ストレッチャーが廊下を滑るように駆け抜ける。

白いシーツの上には、血の付いた衣装のまま横たわるリタ。

そのすぐ後ろを、鈴を乗せたもう一台のストレッチャーが続く。

「処置室、お願いします!」

待機していた医師と看護師が駆け寄り、二人をそのまま処置室へ運び込む。

重い扉が閉まる。

廊下には、慌ただしい足音が絶え間なく響いていた。

数分後。

病院の自動ドアが開き、一人の少女が駆け込んできた。

「すみません!」

肩で息をしながら受付へ駆け寄る。

「さっき救急車で運ばれてきた、リタという子なんですけど!」

受付の看護師は穏やかに頷いた。

「ご家族の方ですね。」

「はい。妹です。両親もこちらへ向かっています。」

看護師は端末を確認し、顔を上げた。

「現在、処置中です。」

モコは息をのむ。

「姉は……無事なんでしょうか?」

「命に別状はありません。詳しいご説明は担当医からいたします。」

胸を締めつけていた重苦しさが、ほんの少しだけほどけた。

「……よかった。」

安堵の息を漏らした直後、モコは顔を上げる。

「あの……運ばれてきたのは姉だけですか?」

看護師は再び端末へ目を落とした。

「いいえ。もうお一人搬送されています。鈴さんです。」

わずかな間を置いて続ける。

「現在、集中治療室で治療を受けています。」

モコの表情が凍りつく。

「集中治療室……」

「詳しいことはお伝えできませんが、予断を許さない状態です。」

言葉を失い、俯く。

やがて、おそるおそる口を開いた。

「あ、あの……もう一人……」

「赤いギターを持った子は….」

「ライカっていう子なんですけど……」

看護師は少し考え、受付前を通りかかった救急隊員へ声を掛けた。

「先ほど搬送を担当された隊員さんです。」

救急隊員は足を止め、話を聞くと静かに頷いた。

「ああ、赤いギターの子だね。」

その一言に、モコは弾かれたように顔を上げる。

「あの子なら無事だ。」

強張っていた表情が、わずかに緩んだ。

「あの子が、俺たちに二人を託してくれたんだ。」

「あの子も怪我をしていた。」

「それでも、自分を助けてくれた演奏妖精が、まだ戦ってるって。」

「そう言って、現場へ戻っていった。」

モコはそっと目を閉じる。

(……ライカなら、そうかも…)

救急隊員は腕時計へ目を落とした。

「俺たちも、これから現場へ戻る。」

そして、モコを真っ直ぐ見た。

「必ず、あの子を連れて帰る。」

モコは深く頭を下げる。

「……お願いします。」

「ああ。」

短く応えると、救急隊員は踵を返した。

足早に廊下を進み、その背中はほどなく曲がり角の向こうへ消えていく。

モコはしばらく、その背中を見送っていた。

胸の前で、そっと拳を握る。

(ライカ….無事でいて…)

白い廊下に立ち尽くしたまま、モコはただ祈り続けていた。

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