【小説】それぞれの後悔 – Episode 1

それぞれの後悔

救急搬送口の自動ドアが勢いよく開いた。

「患者さん、入ります!」

ストレッチャーが廊下を滑るように駆け抜ける。

白いシーツの上には、血の付いた衣装のまま横たわるリタ。

そのすぐ後ろを、鈴を乗せたもう一台のストレッチャーが続く。

「処置室、お願いします!」

待機していた医師と看護師が駆け寄り、二人をそのまま処置室へ運び込む。

重い扉が閉まる。

廊下には、慌ただしい足音が絶え間なく響いていた。

◆

数分後。

病院の自動ドアが開き、一人の少女が駆け込んできた。

「すみません!」

肩で息をしながら受付へ駆け寄る。

「さっき救急車で運ばれてきた、リタという子なんですけど!」

受付の看護師は穏やかに頷いた。

「ご家族の方ですね。」

「はい。妹です。両親もこちらへ向かっています。」

看護師は端末を確認し、顔を上げた。

「現在、処置中です。」

モコは息をのむ。

「姉は……無事なんでしょうか?」

「命に別状はありません。詳しいご説明は担当医からいたします。」

胸を締めつけていた重苦しさが、ほんの少しだけほどけた。

「……よかった。」

安堵の息を漏らした直後、モコは顔を上げる。

「あの……運ばれてきたのは姉だけですか?」

看護師は再び端末へ目を落とした。

「いいえ。もうお一人搬送されています。鈴さんです。」

わずかな間を置いて続ける。

「現在、集中治療室で治療を受けています。」

モコの表情が凍りつく。

「集中治療室……」

「詳しいことはお伝えできませんが、予断を許さない状態です。」

言葉を失い、俯く。

やがて、おそるおそる口を開いた。

「あ、あの……もう一人……」

「赤いギターを持った子は….」

「ライカっていう子なんですけど……」

看護師は少し考え、受付前を通りかかった救急隊員へ声を掛けた。

「先ほど搬送を担当された隊員さんです。」

救急隊員は足を止め、話を聞くと静かに頷いた。

「ああ、赤いギターの子だね。」

その一言に、モコは弾かれたように顔を上げる。

「あの子なら無事だ。」

強張っていた表情が、わずかに緩んだ。

「あの子が、俺たちに二人を託してくれたんだ。」

「あの子も怪我をしていた。」

「それでも、自分を助けてくれた演奏妖精が、まだ戦ってるって。」

「そう言って、現場へ戻っていった。」

モコはそっと目を閉じる。

(……ライカなら、そうかも…)

救急隊員は腕時計へ目を落とした。

「俺たちも、これから現場へ戻る。」

そして、モコを真っ直ぐ見た。

「必ず、あの子を連れて帰る。」

モコは深く頭を下げる。

「……お願いします。」

「ああ。」

短く応えると、救急隊員は踵を返した。

足早に廊下を進み、その背中はほどなく曲がり角の向こうへ消えていく。

モコはしばらく、その背中を見送っていた。

胸の前で、そっと拳を握る。

(ライカ….無事でいて…)

白い廊下に立ち尽くしたまま、モコはただ祈り続けていた。

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