紫音は走った。
つい先ほどまで響いていた戦いの音は、もう消えている。
爆発音も。
誰かが奏でていた音楽も。
何も聞こえない。
それなのに――
ノイズが消えない。
嫌な予感がした。
急がなくちゃ。
角を曲がった瞬間。
紫音は息を呑んだ。
ファントム。
その足元には少女が倒れている。
巨大な腕が振り上げられる。
振り下ろされれば終わりだ。
(コロス)
(コロス)
(コロス)
(コロス)
(コロス)
(コロス)
(コロス)
無数の怨嗟が重なり合い、不快なノイズとなって空間を震わせる。
それでも少女は睨み返していた。
涙を滲ませながら。
震える身体で。
少女は震えながら叫んだ。
「絶対に許さない!」
次の瞬間。
少女の表情が戸惑いに変わる。
ブワン――ッ!
「え?」
空間が鳴った。
少女とファントムの間に、巨大な魔法陣が展開される。
二色の光が複雑な紋様を描きながら幾重にも重なり、
夕闇の中へ咲き誇る。
まるで夜空に咲いた一輪の花のように。
直後――
ズドンッ!!
振り下ろされた黒い腕が魔法陣へ激突した。
バチバチバチバチバチッ!!
ファントムの一撃が魔法陣に叩きつけられる。
紫と蒼の火花が爆発的に弾ける。
衝撃波が商店街を駆け抜けた。
瓦礫が跳ね上がる。
砕けたガラスが宙を舞う。
空気そのものが悲鳴を上げる。
その圧力は、紫音の全身を容赦なく打ち据えた。
凄まじい衝撃が走った。
紫音の腕が軋む。
足元が沈む。
それでも。
魔法陣は砕けない。
紫音は演奏を止めない。
震える指で弓を握り締めながら、
ただ一心に旋律を紡ぎ続ける。
絶対、助ける!
目の前の少女を守るために。



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