救急搬送口の自動ドアが勢いよく開いた。
「患者さん、入ります!」
ストレッチャーが廊下を滑るように駆け抜ける。
白いシーツの上には、血の付いた衣装のまま横たわるリタ。
そのすぐ後ろを、鈴を乗せたもう一台のストレッチャーが続く。
「処置室、お願いします!」
待機していた医師と看護師が駆け寄り、二人をそのまま処置室へ運び込む。
重い扉が閉まる。
廊下には、慌ただしい足音が絶え間なく響いていた。
◆
数分後。
病院の自動ドアが開き、一人の少女が駆け込んできた。
「すみません!」
肩で息をしながら受付へ駆け寄る。
「さっき救急車で運ばれてきた、リタという子なんですけど!」
受付の看護師は穏やかに頷いた。
「ご家族の方ですね。」
「はい。妹です。両親もこちらへ向かっています。」
看護師は端末を確認し、顔を上げた。
「現在、処置中です。」
モコは息をのむ。
「姉は……無事なんでしょうか?」
「命に別状はありません。詳しいご説明は担当医からいたします。」
胸を締めつけていた重苦しさが、ほんの少しだけほどけた。
「……よかった。」
安堵の息を漏らした直後、モコは顔を上げる。
「あの……運ばれてきたのは姉だけですか?」
看護師は再び端末へ目を落とした。
「いいえ。もうお一人搬送されています。鈴さんです。」
わずかな間を置いて続ける。
「現在、集中治療室で治療を受けています。」
モコの表情が凍りつく。
「集中治療室……」
「詳しいことはお伝えできませんが、予断を許さない状態です。」
言葉を失い、俯く。
やがて、おそるおそる口を開いた。
「あ、あの……もう一人……」
「赤いギターを持った子は….」
「ライカっていう子なんですけど……」
看護師は少し考え、受付前を通りかかった救急隊員へ声を掛けた。
「先ほど搬送を担当された隊員さんです。」
救急隊員は足を止め、話を聞くと静かに頷いた。
「ああ、赤いギターの子だね。」
その一言に、モコは弾かれたように顔を上げる。
「あの子なら無事だ。」
強張っていた表情が、わずかに緩んだ。
「あの子が、俺たちに二人を託してくれたんだ。」
「あの子も怪我をしていた。」
「それでも、自分を助けてくれた演奏妖精が、まだ戦ってるって。」
「そう言って、現場へ戻っていった。」
モコはそっと目を閉じる。
(……ライカなら、そうかも…)
救急隊員は腕時計へ目を落とした。
「俺たちも、これから現場へ戻る。」
そして、モコを真っ直ぐ見た。
「必ず、あの子を連れて帰る。」
モコは深く頭を下げる。
「……お願いします。」
「ああ。」
短く応えると、救急隊員は踵を返した。
足早に廊下を進み、その背中はほどなく曲がり角の向こうへ消えていく。
モコはしばらく、その背中を見送っていた。
胸の前で、そっと拳を握る。
(ライカ….無事でいて…)
白い廊下に立ち尽くしたまま、モコはただ祈り続けていた。



コメント