東葉銀座商店街。
夕暮れのアーケードに、
スラップベースの重低音が響いた。
「ドン!!」
リーダーであるリタが、
6弦に感情を込めて打ち鳴らす。
次の瞬間、爆発が起きる。
轟音。
衝撃波。
空間そのものが弾けたような爆発。
だが。
「避けた!?」
リタが目を見開く。
筋骨隆々のファントムは
爆発の直撃を受ける寸前で身体を捻り、
最小限の動きで回避していた。
まるで熟練の格闘家のようだった。
「ドン!!」
爆発。
回避。
「また!?」
爆発。
回避。
爆発。
回避。
その動きに無駄がない。
学校のグラウンドで戦ったファントムたちとは明らかに違った。
いつもならリタの戦い方はもっと豪快だ。
爆発。
爆発。
爆発。
敵を空間ごと吹き飛ばす。
それが彼女のスタイルだった。
でも今回は違う。
ここは商店街だ。
店がある。
人がいる。
守るべきものがある。
「リタ!」
後方からフルートを持った鈴が声を飛ばした。
「出力を上げ過ぎたらお店も巻き込んじゃう!」
「分かってるって!」
リタは舌打ちする。
「学校の時みたいにはいかないか…」
苛立ちが募る。
感情が乗らない。
思い切り爆発させたいのにできない。
その迷いが演奏にも現れていた。
「左!」
鈴が叫ぶ。
リタは反射的に飛び退いた。
直後。
ファントムの拳が通過する。
空気が裂けた。
当たれば終わりだった。
「あっぶな!サンキュ!鈴!」
「どういたしまして!」
鈴は笑う。
その笑顔を見ると少しだけ冷静になれた。
いつもそうだ。
暴走しそうになる自分を止めてくれる。
それが鈴だった。
その時。
ビリビリビリッ!!
雷光が走る。
「そこ!」
雷皇の放った雷撃がファントムを直撃した。
筋肉質のようなファントムが痙攣する。
一秒。
たった一秒。
だが十分だった。
頼りになる後輩だ。
「もらったぁ!!」
キュン――
ボンッ!!!
爆発が直撃する。
煙が上がる。
三人は息を呑んだ。
やった。
そう思った。
しかし。
煙の中から現れたのは。
両腕を構えたまま立つファントムだった。
「うそ……」
鈴の声が震える。
ほぼ無傷。
ありえなかった。
次の瞬間。
ファントムが踏み込む。
速い。
近い。
近すぎる。
「やばっ――」
リタが後退する。
鈴も下がる。
だが。
追ってくる。
まるで獲物を追い詰めるボクサーのように。
距離を潰してくる。
逃がしてくれない。
雷皇は二人を追いながら歯を食いしばった。
何かがおかしい。
このファントムは今までと違う。
強い。
それだけじゃない。
嫌な予感がする。
だから雷撃にも迷いが混じる。
守りたい。
でも怖い。
その感情が雷を鈍らせていた。
ファントムがリタへ肉薄する。
「ちっ!」
リタが叫ぶ。
「これでもくらえ!!」
ボン!!
爆発。
だが。
ファントムは両腕で受ける。
「だよね!」
ボン!!
ボン!!
ボン!!
ボン!!
連続爆破。
ガードごと吹き飛ばす。
それがリタの狙いだった。
「吹っ飛べ!!」
爆発が連続する。
商店街が揺れる。
しかし。
その瞬間だった。
シュッ。
何かが動いた。
誰も見えなかった。
何が起きたのか分からなかった。
次の瞬間。
リタの体が弾け飛ぶように跳ね上がった。
「!?」
身体が吹き飛ぶ。
お菓子屋の入り口を突き破り。
店内へ消えた。
派手な破砕音が響く。
静寂。
鈴は固まっていた。
理解が追いつかない。
目の前で起きた出来事を。
脳が拒絶していた。
「……………………え?」
声にならない。
「…….鈴…..にげて….」
グシャ
何かを踏み潰す音がした。
雷皇は息を呑む。
ファントムがこちらを見ている。
ゆっくり。
ゆっくりと。
こちらへ近づいてくる。
雷皇の喉が鳴った。
はぁ。
はぁ。
はぁ。
呼吸が苦しい。
リタ先輩…
鈴先輩…
二人の名前を呼ぼうとして。
声が出なかった。
私は。
何かを勘違いしていたのかもしれない。
戦うって。
負けるって。
死ぬって。
もっと遠いものだと思っていた。
でも違う。
これは現実だ。
目の前の怪物は。
本当に私たちを殺しに来ている。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
雷皇は叫びながらギターを掻き鳴らした。
ドォォォン!!
雷鳴が轟く。
紫電が商店街を駆け抜けた。
雷光は一直線にファントムへ突き刺さる。
バチバチバチバチバチ!!
「来るなら来い!!」
震える足を踏みしめる。
「絶対に許さない!!」
雷撃が続く。
二発。
三発。
四発。
だが。
避けられる。
躱される。
受け流される。
ファントムはゆらゆらと身体を揺らしながら前へ進んでくる。
まるで散歩でもしているかのように。
「なんで……」
雷皇の声が震えた。
「なんで効かないの……」
今までのファントムとは違う。
雷撃を受けながら近づいてくる。
距離が縮まる。
それでも雷皇は演奏を止めなかった。
止めたら終わる。
そんな気がした。
「ぐっ……負けるもんか……!」
だが。
ファントムが腕のような黒い塊を持ち上げる
憎悪そのものを固めたような巨大な塊。
それがゆっくり持ち上がる。
嫌な予感がした。
本能が叫ぶ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
なのに身体が動かない。
黒い塊が振り下ろされる。
空気が悲鳴を上げた。
視界が黒く染まる。
――死ぬ。
生まれて初めて。
雷皇は心の底からそう思った。



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